vol.5「平田晃久と語らう」 ある日の午後、談話室にて。

ユニオンとの出会い

先生が建築を意識されたのは、どういうきっかけなんですかね。

大学に入るときには、なんとなくという感じであまり考えていなかったんです。なので建築家が何をやっているのかもぜんぜん知らなかったんですけど、やってるうちにいろんな面白さを知り、興味が湧いてきまして。

それで勉強しながら、だんだんのめりこんでいった感じですか?

はい。大学院生くらいのときに、続けてもいいなって思い始めました。

サローネ(ミラノサローネのこと)でのインスタレーションですが、クライアントはトヨタでしたよね?あれは確かトヨタが初めてサローネに出展されたとき。当時、話題を呼んでいました。

そうですね。僕も独立して2, 3ヶ月くらいのときにもらった仕事で、独立してからの受注で考えると初めての仕事です。

トヨタからお声がかかったとき、正直どんな心境だったのですか?単純にすごいと思うのです。若い建築家たちでなかなか独立しても仕事が来ない人が多い中で。

僕は運良く、KAIT工房という仕事をもらったタイミングで独立しました。でも、実際に建物という制限を抜きにしたら一番最初の個人の仕事として発表したものはレストランの薄いテーブルの仕事です。その後、domusとか北欧の雑誌にも載りまして、それを見たvitraのロルフ社長から手紙をもらい、仕事の話がきたり、そういうタイミングで独立をし、その後KAIT工房の設計しているときにそのトヨタのサローネの話が来て、という感じで始まりまして。

そうなんですね。実はあの年は私たちも出展しましてね。小さな教会が会場だったのですが、西沢大良先生と組んで、一緒にやりました。一応我々も話題性はあったんですけどね、いかんせん商売にならなかったんです(笑)。しかしそれからずっとトヨタを継続で任せられていますよね?

はい。今でもトヨタの社内向けに講演をしたり、何かしらで繋がりはありますね。

普通、自動車メーカーなら、展示も自動車を主役にしがちなところをぜんぜん違う見せ方をされたのは、どういう意図があったのですか?

最初はあの空間の中でも一部分だけを使ってという話をしていたんですけど、国際“家具”見本市であるサローネにおいて、自動車メーカーであるトヨタの人たちにとっては前例のない類の展示であったし、なかなか方向性が定まらない中、話を聞いていくうちにトヨタの世界観とか、キャパシティとか、そういうものを見せたいというのが大きなニーズとしてあることがわかりました。さらに、車の展示ならモーターショーとか、そういうところでやればいいわけで、サローネでアピールするにはもっと別のコンセプトや演出が必要だと思いまして、予算は変わらなかったんですけど、会場の使用範囲を広げてもらって、車が小さく見えてくるくらいでないとその世界観は表現できないな、と思って空間を設計しました。

トヨタのイメージも変わりましたでしょうね。世界的な戦略というか、そういう面では凄い仕事をされた訳ですよね。

そうですね、元々アメリカ向けのブランドだったレクサスが丁度世界的に展開していくところだったから、そういう意味で本当にトヨタ自身も世界に向けて色々なものを発信していくタイミングだったんですよ。

その後にKAIT工房ですか?あの建物は柱の組み立ての仕方が面白いですよね。あれもいろいろ狙いがあって設計されたんですか?

そうですね。あの時は独立してすぐの頃で、建築の仕事としては最初に来た仕事だったので、すごく集中しました。最初は大学側の委員会の人数が多くてやり取りが凄く大変で(笑)。教授方たちが20人くらいいるのですが、全員の意見をまとめていかないといけなかったのです。

みなさん口々に要望を言われる感じですか(笑)?

そうです(笑)。僕がまだ独立したばかりだから、向こうからしたら大学院生のような人たちと話しているみたいな感じだったかと思います(笑)。

そのとき、先生はおいくつだったんですか?

独立したときなので、29ですね。スタッフも大学から上がったばかりの人や、むしろまだ大学院で学生をやっている人も中にはいました。

その時は事務所には何人くらいいたのですか?

3人くらいでした。大学院生の人はバイトとして起用しながら、会議にも参加してもらっていました。そういう中で色々と怒られながらやっていきまして。大学サイドに強烈な人が多すぎて意見がまとまらなかったので、まとまらなくても良いようなフレキシビリティを持てるような空間の作り方が出来ないかと思い始めまして。

しかし、普通あのような“柱がたくさん”のアイデアは思いつかないですよね。

あれ自体は結構思いつくんじゃないかなと思いますよ。建築をやっている人だったら誰でも一度は「柱で空間を作ってみよう!」と考えると思います。僕はそういう感覚は重要だと思っていて、皆が「やりたい」と思えるような事を自分も「やりたい」と思いたいというのがなんとなくあります。

普通でしたらもっと空間を開けたいという流れになると僕は思うんですよね。こういう案件では出来るだけ柱は使わずに、空間を大きくしてというところからは全く逆の発想ですね。

そうですね。でも大学に一番最初に提案した時は、もう少し大きなスケールで柱のスパンもピッチを大きく設計していたんですけど、というのも元々大学では『夢工房』というプロジェクト名が付いていて、学生や地域の子どもが自由に来て自由に作れるというコンセプトで作ろうという事があったので、なるべく色々な事が出来た方が良いという事でそれに合わせるように僕は大きい大空間を提案していたんですけど、話を聞いていくと勿論その通りではあるけれど、普段は放課後に学生が一人で来ても使えるような空間が重要でかつフレキシブルであって欲しいという事だったので、ヒューマンスケールに落とせるような空間でありながら、塩梅によっては大人数でも使えるという事を両立させないといけないことが分かりまして。

開けた大空間にしないことで面白い作品になっていますよね。あれが普通に大空間になっていたら、こんなには話題になっていなかったかなと思います。

そうですね。あ、でも大空間だったら大空間でやりようはあるとも思っていて、実は今KAIT工房の手前の敷地に新しい建物を作っていて、そっちの建物は開けた大空間で作っているんですよ。

なるほど。対照的になっているんですね。

もう直ぐ着工でして、来年には竣工する事になっています。新しく建てる方は多目的屋内広場みたいな感じでして、KAIT工房の3倍くらいの大空間を作っています。

土を掘ってレストランを作る

以前、平沼さん(建築家 平沼孝啓氏)の所で講演されていましたよね。あのとき話されている中で印象的だったのが、洞窟みたいなレストラン。あれには正直びっくりしました(笑)。

今は大分できてきました。

そうなんですね。あの発想はどこから出たのですか?

さっき話していたレストランのテーブルと同じクライアントでして、今度は独立した店舗と住宅を作って欲しいという依頼がきまして、今はこんな感じなんですよ(スマホの画面を見せながら)。

はあ~、本当ですね。凄いですね、日本にあるとは思えないですね。

テーブルのときは、すごく軽いものを作ったんですけど、今回はもう少し重々しくて、最初から古くて味のあるような雰囲気の建物にして欲しいという要望を受けまして、昔の居酒屋さんとかヨーロッパの古いレンガの建物の中にレストランが入っている。そういう感じにして欲しいという依頼でして。現代建築で表現するのはなかなか難しく、普通にやったらただの装飾になってしまうので、作り方から考えようかなと思いました。

その作り方というのが穴を掘るっていうあの方法ですか?

そう、穴を掘っていく方法です。

施工業者の方もビックリされたのでは(笑)?

最初、作り方が分からないと言っていましたね(笑)。模索期間が3ヶ月くらいありました。でも、日本の職人さんは優秀なので、分かってくると図面を見ながら、渡した図面通りにどんどん掘ってくれて。一度コツを掴んでもらってからは凄く早かったです。

完成はいつ頃ですか?

今、ちょうど外観が出来上がってきていて、これから内装をやっていくという状況です。全部掘り終えたところです。2018年の年末くらいを目指しています。

日本は耐震とか色々言われているので、そういうデザインの建物なんてなかなか実現は難しいじゃないですか。

耐震という意味ではこれは凄く強いんですよ(笑)。コンクリートの塊というか、しかも意外と中が涼しいんです。断熱材はありませんが、こんなぶ厚いコンクリートなので、夏は中に入るとひんやりします。

そうなんですね。冬は少し暖かい感じなのですか?

そう。半地下なので。

良いですね。完成したらまた話題を呼ぶでしょうね。

そうなると良いですね。

テーブルに見た建築的な役割

建物でもテーブルでも、かなり構造計算されて作られていますよね?

はい。テーブルも構造計算をしました。

構造は勉強されていたのですか?

最初にそのテーブルを作った時は、独立前に自分で仕事をし始めた時に、なかなか建物の仕事はすぐには来なくて、そんな中で内装の仕事を貰って。今の洞窟の話と同じクライアントなんですが。個人では初めての仕事だったので建築を作りたいなという気持ちが強かったので、「内装だけ」の仕事を正直請けたくないのがあって、何度か断ったんですが、そのクライアントというのが元々東京にいた時からの友達でして、山口に帰って初めてやるお店だから頼むと押し負けまして、やってみる事になりました。その後、僕はずっとどうやったら「内装」の仕事としてではなく「建築」としてつくれるのかを考えていまして、考えていくうちに、レストランの中で一番建築っぽい形をしているのはテーブルだって思いました。テーブルを建築みたいに作れば内装ではあるけど建築と捉えることができるのではないかって。自分としては建築を作った感じで思えるから、それでテーブルをメインに置いて設計をしてみようと始めましたね。

テーブルがかなり主張しているのはそのためなのですね。

レストランの中で一番機能に関わる所を設計しないとそれこそ装飾的なデザインに留まってしまうって思いまして。レストランの中で一番機能に関係するということと、テーブルが建築に似ているという所でテーブルに焦点を当てて設計をしました。元々、彼のお店が少人数のお客さんに対してだけサーブしたいのがあって、具体的には4組くらいしか入れないようなお店を考えていました。それでお客さん2名にとっては大きいサイズ感のテーブルを5台作って、その大きなテーブルが空間を仕切ると同時に、お客さんが自分の領域が分かる、パーティションの代わりにもなりました。実際には4台プラス食器などを置くテーブルという事で、5台作りましたね。

使い手のプライドを喚起するこだわり

KAIT工房と同じ時期にヤマモトヨウジさんのニューヨークのお店も関わりまして。その時、元々あるレンガの建物を切って独立した建物を作るということをやったんですが、最終的にドアを作る時に、どうしても現地で良いドアノブが見つからなくて、ユニオンのものを持って行きました。

ありがとうございます(笑)。我々はハンドルを「ビルの顔」と宣伝していますが、なかなかそのテンション感で凝られる方も少なくて。ちなみに石上さんが建物を立てられる際に細部で一番凝られるのはどの部分ですか?

どこでも凝りたくなりますけどね(笑)。もし許されるのなら、本当は全部作りたいです。例えば、トイレとかはしっくりくるのがいつもなくて。やっぱり既製品のサイズから決めたいところがありますよね。お風呂はたまにコンクリートで作る事はあります。それでもやっぱり、基本的には既製品で対応しますね。アルミサッシとかもなんとかならないか、いつも気にしてます。

ハンドルならいつでもおっしゃってください(笑)。昔は結構建築の諸先生方のハンドルに関わらせてもらいまして。当時は石上さんのように、ずいぶん細部まで凝られている方がいらっしゃいました。家具も全然イメージに合わない家具を入れられたら困るのでそこでも一緒に立ち会って良いのを選んでといった感じが多かったです。今はそれぞれの担当分野だけで、後はもう知りませんという感じが結構多い印象ですね。

確かに。この前ルイス・バラガンが設計した住宅をいくつか見て回ったんですけど、住んでいる人もかなりプライドを持って住んでいるんです。ルイス・バラガンの建てた住宅って、ルイス・バラガン本人が自分で人形を持ってきてセッティングしてるんですが、それが未だにどの家に行っても当時セッティングされた位置のまま配置されてたりして。

全然動かしていないんですか(驚)!?

そう!全然動かしていない。備品の位置も竣工時とまったく一緒で。それくらい共感していたのでしょうね。建築が押し付けているのではなくて。

そういうのはやっぱり嬉しいですよね。うまく使って貰えて。

そうですね。現代の建築家でもレム・コールハースのボルドーの家に感動したのですが、全部がこう、発明品みたいな感じでディティールが全て普通のものはない状況を生み出している。一つひとつは特別奇抜ではないんですけど、どこからどこまでも発明されているような。それが空間を作っているというのが、凄く感じられて感動しました。

洞窟レストランの内装部分は決まっているのですか?

今ちょうどやっていますね。壁をやっています。壁の土をそのまま残そうとしています。コンクリートの仕上げじゃなくて、土が残ってくっついてくるじゃないですか、それをそのまま仕上げにしたくて。普通の土壁と逆なのですが、土壁を塗るのではなく、元々ある土を土壁のような状態にしていくというのを今まさに実験しています。その後はガラスをはめていく予定です。

今までにないアイデアで、また面白いですね。ハンドルは今、具体的にどのような段階で?

ハンドルはまだ出来ていないです(笑)。これからです。

そうですか(笑)。

ガラスは全部回転するやつにしようかなと思っていて。

オーダー品ですか?

そうですね、お金次第です。予算が凄く限られているプロジェクトなので。そこのバランスなんですよね。

実戦の中で求められ、磨いていく

海外のプロジェクトでは今、どういう事をされていますか?

海外では最近で言うと、例えばオランダのプロジェクトが進行していまして、森の中に作るビジターセンターを建てています。

オランダのどの辺ですか?

北の方ですね。アムステルダムとかドイツに近い地域です。

海外のお仕事はほとんどコンペですか?

いや、そんな事はなくて、例えば最近は中国の案件が多いんですが、中国のクライアントは結構、ディベロッパーが個人で来ることがあります。

住宅ですか?

住宅や、別荘みたいな案件が多いですね。別荘と言っても大きくて1戸500平米くらいあって。それが8棟くらい繋がって、4~5千平米くらいあります。ディベロッパーの人がプライベートで、とか。

売られるわけですね?

そうなんです。

こんなの言っちゃあれなんですが、中国の方にも先生の建築の良さって伝わるんですか?

クライアントにも色々な人がいるので、ちゃんと良い人を選べば割とやりやすいんじゃないかなって思っています。中国の場合、良い意味で大雑把というか、何から何までザックリしていて、土地がまず決まっていないところからのスタートが多いです。設計した後に大体この辺を敷地にするので、ここを政府から借りるからという感じで。あまり細かくなくて良いですね。あとは、ロシアで博物館みたいなのをやっていまして、他にはオーストラリアでアーチというか、市庁舎の前に70メートルくらいの大きなゲートを作っています。

モニュメントみたいなものですか?

そうですね。シドニー市の一番古い通りでジョージストリートという通りがあり、そこが今、車が凄く渋滞する状況になっているのですが、今の市長が全部歩行者天国に変えるっていう計画を練られています。それで、市庁舎の前にも新しく広場を作るっていうので、そこの広場と道路を跨ぐようなゲートを作るというプロジェクトです。それもモックアップが12月には出来上がって、来年くらいには着工って感じですね。

先生はコンペに強いんですか?

いいえ。負ける事が殆どですよ(笑)。

戦歴でいうと、何勝何敗くらいですか?

たまに、奇跡的に勝つくらいですよ、本当に。

海外と国内を比べた時に、これから段々国内の仕事は難しくなってくるんじゃないですかね。

確かに僕は少ないですけど、国内の仕事もいくつかやらせて貰っていて。さっきのレストランもそうだし、KAIT工房の前の屋内広場とか、あとホテルもちょっとやっていたりしています。

若い人には、先生みたいなそういうチャンスがないと、なかなか難しいですよね。ご自身の実力もあるのですが、そういうのがないと、建築家を目指される方はどうやって勉強していったらいいのか、実際にはわかんないのではと考えています。

どうなんですかね。僕も常に分からない事だらけなので、勉強しながら分かるものなのかなって思ってます(笑)。やっぱり作りながらじゃないと、なかなか分からないですよね。僕も今でも実際出来上がってみるまで本当の所は分からないというのはあって。でもそれが面白さでもあると思っていて。実際こうなる筈だと思っていた所と予想もしていなかった所が目の前に現れるのが面白いかなって思っています。だから、勉強して分かるものではない学びがあるなって思います。勿論勉強しないといけない事はいっぱいあると思うんですけど。例えばピアニストがピアノの練習をして上手くなっていくというような技術の向上も建築家の中にもあると思うんですが、結局、建築って言ってみれば誰でも作れるものなのかなとも思ってます。自分で作るわけではなくて、「僕はこうしたい」と言うくらいしか出来なくて。ユニオンさんもそうですし、色々な職人さんや業者の方々がつくるのはやってくれる所が多いですよね、実際。勉強とか練習みたいに、バージョンアップしていくのも重要だと思うけど、建築ってどのプロジェクトでも絶対に同じものを作る必然性がない訳で。クライアントも違うし、土地も違うし、人も違えば使い方も変わってくるわけで。だから毎回毎回チャレンジできるのが良い所かなと思ってますね。

まず知識も必要でしょうけど、実戦の中でそれを磨いていくというか、経験していくものなのでしょうね。

大体、次は使えない事が僕の場合多くて。結局ゼロから考える所から始まって。あと「これ昔考えた筈なのにまたやってるな」ていう事もよくある(笑)。

(笑)。恵まれる、というのも大事でしょうね。良いものを建てる時にチームのメンバーに恵まれないと出来ないわけですからね。そういう面では先生は良い星を持っていられると思いますよ、星というか、なんといいますか。

どうなんでしょう。

建築家も毎年たくさんの方が独立したいと思っていても出来ない人が多いわけですからね。そういう面では色々な面で恵まれたものがあったんでしょうね。

そうですね、実際最初の頃はそうでした。レストランもそうだし、ヨウジさんも学生の時から、当時の社長さんと僕の年齢が同じくらいで学生の時からよく知っていたということもありまして。

そうなんですね。人との出会いは大きいですよね。

ええ。そうですね。

アート・ビオトープ那須のお話もお伺いしたいなと思ってて。レストランのご実績でも机で空間を決めていかれていたり、KAIT工房の場合は柱で空間を構築していくというのがあって、今回のアート・ビオトープ那須の案件は元々あった自然の木を一回全部取って、設計してそれをまた戻して光を入れたり、コケを生やしたりとかして建築をしていくという、クライアントさんはそういうコンセプトに共感されているんですか?

あれは元々は敷地が二つあって一つは公園として作る敷地が16~7千平米、もう片方の新しいホテル用地が同じくらいの面積でありました。公園の方は元々牧草地になってて、ホテルの方は森でした。ホテルの方はどっちにしろ切り取らないといけないから、その森を公園側に移すことにしました。ただ木を一本一本根巻きしていたら何年も掛かかってしまうので、日本に二台しかない大きな機械を使えば、根巻きをせずに移動できるんです。ただ、隣の敷地に移動するだけなので、どこかから木を買ってくるよりも安くなることが分かり、結果、その方法で進めることになりました。僕は建築家としてできる造園の在り方を試してみたいと思っていました。建築だったら建材を選んで部材を設計して建てていく、それと同じように組み立てられないかなと思い、ホテル予定地側にあった樹木を全部写真で撮って実測をし、図面と模型に変えていって建物を作るのと同じような作り方でランドスケープを作っていけば、建築と同じような考え方だったら作れると思いながらやっていました。

そうですか。建築的な手法で造園をされたんですね?

そうですね。

設計にはとても時間がかかりますよね?

そうですね。時間がかかりましたね。三年くらいはやってます。今はこういう感じです(スマホで写真を見せる)。全部そこにあった要素で再構築してます。樹木もそうだし、全部コケを生やすのですが、元々湿っていて凄くコケが生える場所でして。そのコケを持って来て貼るというのと、公園予定地の牧草地の前は田んぼだったので、それで水を引き込む水門がありまして、それを使って池に水を引き込む作業を行いました。だから元々の要素を組み替えてやるっていうような方法ですね。

現場に行ってから構想を練られたのですか?

そうですね。やっていきながらですね。元々は森というよりは貸し農園みたいにしたいとクライアントは言っていて、同時に公園とホテルの二つのプロジェクトが動いたわけじゃなくて、公園をやっている最中にホテルのプロジェクトがやってきて、それで少し考え直すタイミングがありました。提案がどうもしっくりこないと思い、考え直しました。

あえて予測不能な部分を作る

我々はメーカーでやっているのですが、現場ごとに違うと思うので、今ぱっと聞くのは無茶があるとは思いますが(笑)。素材としては、素材感があるのがお好きですか?

空間があって素材があるとか、素材を貼ったので、きらびやかになるとか、そういうのを分けて考えたくはなくて、むしろ一番自然に見えるにはどうしたら良いのだろう、という事の方が僕には結構重要です。全体をパズルのようにバランス調整していった時にそれぞれの存在感が消える瞬間があると思っています。どう組み合わせたら、そうなるのかと考えています。実際そのシチュエーションによってパズルが合うように無数の要素が組み合わさって全体的に空間が一体化していくことが重要だと思っています。その場の微妙な雰囲気によって最終的なことが決定いていきます。定石はあまり好きじゃないですね。

空間との関係性でそういう存在感を消していくという事ですか?

そうですね。あと、いつもこうしてるからこうだとか、常識はこうだからこうだとか、要するにショートカットするようなやり方は頭を使っていないと僕は思います。常識という価値観っていろいろなところを当たり前だからと、何も考えずにショートカットをして飛ばす訳じゃないですか。常識的な事とか一般的に思われている事は多分そういう事だと思うのですが、自分でバカだなと思いながらも、一からコツコツひたすら積み上げていくのが重要だと思っていて、分かっていても一回ゼロから積み上げてみたら、積み上げ方が変わったりすることがあると思っています。そうすると、自然といろいろずれていって、違った何かが見えてくる。だから、普通の事でも一回バラしてもう一回組み立て直すのということをいつもやりたいと思っています。

KAIT工房では、どの柱が水平力を受けているのか、鉛直力を受けているのか、パッと見、分かってしまうのが嫌で、それで抽象化しているような事を言われていたと思うのですがドアハンドルでやると、それは役割としてはドアを開ける役割が当たり前のように分かると思うのですが、それを抽象化する方法はありますか?

抽象化というか、普通だからこれを使うというように採用するのではなくて、結果的に普通に見える方が良いと思います。例えばKAIT工房の柱であっても、僕がやった事はどれだけ柱の数を減らしてあの柱の多い表現が維持できるか、というところだったんですね。柱で空間を作るからには、柱が邪魔に思えたら完全に終わりだと思っていたから、あの表現を維持できる最低限の柱の数はいくつなのかってところを突き詰めました。出来るだけ減らしていって空間が成り立つギリギリの所を狙って。あまり目的が定まっていない人が行ってもある程度は普通に使えるっていうところが僕は重要だと思っていて。その存在感のなさが普通さに通じると思っています。普通な事っていうのは形式としてある訳ではなくて、一回バラしてみて、多くの人がそう思う事っていう事で一回積み上げてみるのを僕はいつもやりたいと思っています。

なるほど。一般の方が普通に思えるかどうかっていうところに対しては、検証はどのようにしているんですか?

それはスタディしかないです。僕は出来るだけ色々な方向からスタディをしたいと思っていて、例えば、ほとんどの場合、僕の事務所では最後に原寸を描くんですね。1/100で分かる事と1/50で分かる事と1/10で分かる事と原寸で分かる事と全然違うんですよ。例えば原寸で分かった事でももう一回1/50に戻してみると、シックリこない場合もある。原寸で良かったとしてもプランに落とした時に良くない事もある。

行ったり来たりするんですね。

はい。だから案を考える一番最初の時点で原寸を作る事も多いです。

原寸をつくるところは少ないですよね。だいたいミニチュアを作って検証していく。

そうですね。もっと本当の事を言うと、僕は予算が貰えたら建物一回作って、壊してもう一度作りたい。

(笑)。ちょっとそれは(笑)。

(笑)。建築の難しい所と面白い所は多分そこで、量産品っていうのは多分それができるじゃないですか。一回やって改良してっていうので、どんどんバージョンアップしていけると思うのですが。

建物でそれは難しいですね。

そう、そこが面白い所でもあるし難しい所でもあるという。

残っている建物っていうのは、日本の古い木造建築とかいっぱいありますが、皆が好きじゃないと残らないっていう原理があると思います。皆が残したいと思わないと絶対に残らない。誰もかかわらない建物は朽ちていくし、廃墟化していく訳で。人間が残したいと思わないと残らないから、そういう意味で皆が好きだと思うものを作らないといけないし、皆が普通にいられるようなのを作っていかないと、いくら特殊な事を考えても一部の人はある時期だけ良いと思っても建物として残っていかないのはある。皆が好きっていうのは建物を作る時に重要だと思っています。

先ほどおっしゃっていた「一度作って壊してもう一度作る」という話で、山口県の住宅は、3Dプリンターで作ったもので模型をモデリングしたものを作って、その後に実物の作業をされているのですか?

実はあれは3Dプリンターではなくて、手で模型を作っていったものをフォトスキャンして3D化したものを更にもう一回模型に変えて、そのデータと僕らが手で作ったものが合ってるか確認して、データの方を修正していき、最終的に土に置き換えていきました。

そういう3Dを用いた手法というのは頭で考えていたものを実現する方法として、今後建築の中で重要になっていくと考えられていますか?

それは、僕は諸刃のところもあると思っていて。3Dは勿論これから重要だと誰でも分かっているんですが、一方で建築の設計を概念で捉えたときには、ある意味では退化しているとも僕は思っています。3Dで図面を描くのはセルフビルド的に自分で空間を立ち上げるかのように、図面を書くという過程を通らずに、いきなり空間をつくることが出来る。それは良くも悪くも図面という抽象化する工程が一つなくなっていると思うんです。でも建築にとって平面図、断面図、立面図の美しさは相当重要だと思っていて、KAIT工房なんかは正に平面図を作る為に建物を作っているくらいの感じでやっていましたし。とにかく図面の抽象度と美しさは建築に重要だと思うのですが、3Dを使う事によってその工程が一つなくなっているとも言える。だから、ある観点から見ると退化していると思えます

そうですね。建築は基本的に四角い建物だから簡単に描けるじゃないですか。それだと建築家がいなくても出来るので、建築家が関わるならもっと創造性のあるものが今後残っていくと思いますし、求められていくと思いますね。

そうですね。
ぼくは、これからは、システムによって機械的につくれるものと、機械ではつくれない偶然性とか自然の作用とかでできあがるものと、それらの間の部分を考えて行く必要があると思っています。どちらかではなくて、その間の部分に可能性があると思っています。山口で試したのが正にそういう事で、元々3Dスキャンしているわけだから、今の技術だったらそのまま型を起こしてお金さえ充てれば僕たちが意図したまま出来るところを「あえて予測不能な部分を作る」というのを僕はやってみたかったんです。それでああいう事になっています。これからの時代は人間にはできない精度やスピードで機械的にものをつくりだす技術を、意図してどの部分にその技術を組み込むかという戦略自体を考えることが創作につながるという意識はありますね。少なくともすべてを新しい技術に置き換えるというのではありません。新技術を含めて、ものがつくられるすべての現象を等価に扱い利用していくことが重要だと思っています。たとえば、機械と自然(もしくは人間)との間のことを突き詰めて考えていったときに、どこかでそれらが繋がり、僕たちが今まで知らなかった世界が開けてくるような気がしています。それは、もしかしたら、新しい自然とも呼べるいままで世界に存在していなかった風景なのかもしれないとも思っています。

(終了のお知らせ)

ありがとうございました。

Planning:宮本 尚幸、桑野 敬伍
Photography:宮西 範直
Writing:桑野 敬伍
Web Direction : 貴嶋 凌
Web Design : 久米川 裕二

アトリエユニオン コーポレートサイトへ戻る